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「女優ビッグバン」制作日誌 Day2 音楽と言葉の愛憎関係

紀伊原ひろがオリジナル曲「女優ビッグバン」を演奏している写真

Day 2 (4/3 Mon)

本来ならSNSAI関連作品を宣伝しまくらなくてはいけなかったが昨日書いた詩を曲にしたい欲求が強く、ギターを持って住宅地からはちょっと離れた所にある穴場的で広めの公園に出かけた。


毎週のことながら月曜は気力が湧かず、作業に着手するまでにいつも通りタバコを何本も連続で吸いながらいちいち余計な心配事や考えごとを持ち出したり、今後の人生計画をいちいち再確認したりしてる内に2時間くらい経っていた。薬はまだ効いてなかった。


ようやく作業を開始し、とりあえずギターは使わずに詩を読みながら適当なメロディを作っていた。もともと音楽の歌詞として書いた詩ではないため字数が多く、普通の歌にする場合かなり省略と修正が必要だった。そこで以前から挑戦したかったラップに乗せることにした。


オレは洋楽ばっかり聴いていたこともあって、もともと音楽を歌詞で聴くタイプではなく、絵や景色を見るようにメロディやリズム、グルーヴを身体全体で感じながら現実から目を背けるタイプのリスナーだった。情景が浮かぶような音楽を何より好んだ。そして独創時な音の並びにゾクゾクしたり感動するタイプの不審人物であり続けた。


だから言葉が主体で、最初にジャンルを開拓した人間が作った曲の歌詞だけを変えたような曲ばっかりのヒップホップやラップが嫌いだった。同様にブルースや演歌なんかも最初の開拓者以外は好きじゃなかった。何で自分でメロディを作らないのか不思議でしょうがなかった。人の真似しておきながらいきがって自己主張してるのがダサいと思っていた。


そんなオレも歳をとったせいかジャンルに対するこだわりもなくなり、いつも曖昧な受け答えをしたり自分の本当の気持ちから目を背けたり頭の中で考えてばかりしてきたオレは自分の思ってることをストレートに吐き出す必要を感じていたり、英語の歌から日本語の歌に回帰したというのもあって歌詞という物に対する価値観が変わっていた。

言葉の力は時として音楽以上に強力で、人生や世界を変える力を持っていて、人を死に至らせることさえある。


人は基本的に言葉でコミュニケーションを取る生き物で、その言葉によるコミュニケーションが苦手なオレにとっての代替手段が音楽だった、というのは若干美化されているが全くの嘘ってわけでもない。オルタナティブロックなんかのジャンル名があるが、オレにとってロックに限らず全ての音楽は言葉の代替品(オルタナティブ)であった。あんまり意識してなかったがオレが洋楽ばっかり聴いたりラップが嫌いだったのはそういう言葉のコミュニケーションに対する嫌悪感があったのだろう。基本テキスト向きでリズム感に欠ける日本語やジェスチャーをしない文化にも多動症のオレには馴染めなかった。中国語みたいにリズミカルすぎるのも倫理に反するが、テキスト以外で日本語を吐き出すのは本当に気が滅入る行為だった。


しかし皮肉にも音楽自体が「言葉」から派生したものであるという有力な情報もあり、音楽の力を最大限に発揮させるのは結局のところ言葉だということも最近の研究により解明されてきている。音楽の力に言葉の力が加わわって無敵艦隊となったオレ達はアフリカを出発し、殺戮と産業革命そしてアポロ計画を経て日本という窮屈な島国に引きこもりはじめ、犯罪者のような顔をしながらPCモニターに釘付けになって数々のゲーム音楽を排泄してきた。そして自分の言葉をボカロキャラに代弁させ、粉々に弾け、悪意に支配されながらも犬の散歩に出かけ、いかがわしくも混ざり合ってきた。


混ぜるな!危険!


そんな産声を上げながら無重力空間を飛び出したべジータ伯父さんが引き起こしたビッグバンの轟音によって夢の世界から引きずり出された大魔王は時空の裂け目から顔を覗かせ、息子ダニーに呼びかける。間一髪のところで伯父に助けられ悪魔に憑かれた父ジャックを炊飯器に封印するダニー。「何故だ...この私がこんな虫ケラどもに敗れてしまうとは...い、意識が薄れてゆく……わ、私のホテルが……崩れ...ぐはっ!」(シャイニンボールIV*より抜粋


スティーブン・キング「シャイニング」映画版
ドアの裂け目から覗くジャック・ニコルソン

そんなふうにして大まかなメロディイメージを作り、ギターを適当に弾きながらしっくりくるコードや曲調を探していた。


最近は動画の出だしのコード(コード名はDしか知らないから分からない)を使うことが多く、今回も採用した。


ラップにするということでファンキーな感じにしようと思い、かなりありふれたギターリフを続けて詩を合わせていった。イメージが沸いてくる内に段々とやる気が出てきて集中し始めた。薬の効果もあったが、作曲に関してはギターを弾いてるうちにフロー状態に入っていくからあんまり関係なかった。


あとはいつも通りジーンズのように王道的で普遍的なコード進行からちょっとばかり独特な展開を織り交ぜていき、曲の基礎は30分とかからずに作り上げた。


ちなみに19歳の時から途中ブランクを挟みつつ20年間作曲をしているが、歌詞から曲を作ったのはおそらく今回がはじめてだった。メロディから先に作るという行為はコードから作曲する手法を知らなかった初心者の頃にやっていた。偉そうに自分の意見を押し付けるだけでオレの意見など何も聞いてくれなかった親の元で育った(そして意見を聞いてくれる人格を自分の中に作り上げてきた)ため、人に教わるというのが嫌でギターも作曲も教則本とかはほとんど読まずに試行錯誤しながら独学で学んだ。


初潮を迎えた赤面恐怖症のオレは初めて作曲をした時のように少し恥じらいながら石炭を炊き、お気に入りのコンビニエンスストア、ファミリーマートで買った、真っ黒に焦げたポロシャツを骨の髄まで貪り尽くした。


昼食を済ませ、しばらくの間しらばっくれていたオレ達は「ファミマって清潔感があって家庭的な雰囲気のパートさんが多いよなあ、女の子も可愛い子が多いわ。イレブンはちょっと現実的すぎる女が多いし、ローソンは婚期を逃して性格が歪んだクソババアとかオタクっぽいやつが多いよなあ。デブ率も高い。何でだろ。やっぱファミマだよなー」なんて考えながら束の間の平穏を感じていた。


午後は何十回も同じセクションを弾きながら詩を合わせて曲を完成させていき、歌の練習をしてる内に夕方になっていた。暖かくなってきて日没も遅くなってきたから18時くらいまで歌っていた。


夜飯は納豆ご飯で済ませた。(最近は節約目的と欲望に満ちた過去への反省から、卵とネギを入れた納豆ご飯と味噌汁で済ませるパターンが多い)


この週は才ナ禁も頑張れてて、この日もたしか才ナ二一はしなかった。


1日も早くこのくだらない世界から離脱できることを願いながら眠りに就いた。


つづく


*ドラゴンボールのべジータによる「ビッグバン・アタック」と無天老師による「魔封波」、ドラゴンクエストIVの魔王デスタムーア、スティーブン・キングの小説「シャイニング」と続編「ドクター・スリープ」


🏷️  女優ビッグバン 音楽制作  作曲  ドラゴンボール  言葉   映画  

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